東京高等裁判所 昭和37年(ラ)319号 決定 1963年11月30日
抗告人 田辺元栄
相手方 藤本ミサ
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告理由は別紙抗告の理由記載のとおりである。
所論は、本件債務名義は、建物収去、土地明渡を命ずる確定判決であつて、建物退去を命ずるものではないから、右債務名義によつて抗告人を前記建物から退去させることは許されない、と主張するけれども、債権者は右債務名義による建物収去の前提として同建物に居住する債務者をこれから退去させることができるものと解するのを相当とする。そしてこのことは、判決確定後において抗告人が相手方に対し収去すべき建物につき買取請求の意思表示をしたということだけによつては、なんらかわることがないばかりでなく、これがため建物収去の執行が許されない場合においても、右債務名義により抗告人に対し建物退去を強制することを妨げないものと解すべきである。
よつて右と同趣旨に出で、抗告人の本件異議申立を却下した原決定は正当であつて、本件抗告は理由がないから主文のとおり決定する。
(裁判官 大場茂行 下関忠義 秦不二雄)
別紙 抗告の理由
(一) 抗告人の事実上、法律上の主張は原決定記載の通りである。
(二) 原決定は建物収去土地明渡の強制執行はその建物に債務者が居住している場合には、事柄の性質上債務者の建物退去による土地明渡を当然に包含しかつこれを前提としていると判示している。
1 然し乍ら右は誤解であることは明白である。
建物収去は文字通り建物を取り去る事である(債務者が居住していると、いないとを問はない)建物を取去る観念は債務者が退去することを何等含んでいない、居住の儘トラツクに乗せて取去り、成はクレーンで釣り上げて取去る事も差支えない(任意であると、強制執行の場合を問はす)
強制執行により解体して取去るにしても債務者の退去を必要としない片端から解体していけばよいのである。
2 債務名義の判決は建物収去の方法により土地を明渡すべきことを命じているのである、建物退去の方法により土地を明渡すべきことを命じているのではない。
建物収去が法律上、事実上の理由により執行不能となれば、右判決は執行不能となるのであり、之を建物退去にすり換える事は許されない、主文に何等の記載が無いのである(建物収去の執行不能となるべき事を予想し、此の場合は建物より退去すべきことを主文に明記されてあることを要する、之なき限り執行は不能である)
3 民事訴訟の実際に於ても家屋の退去を求める場合は其の旨の主文を求める、土地明渡の主文を求めるのではない、原審の如き解釈は、最強力、最終的な国家権力の行使である強制執行を徒らに混乱せしめる結果を生ぜしめるのみの悪解釈である。